2010.11.03 Wednesday
Graveyard Day, Victrola, Small Avalanches, The Fiend
JUGEMテーマ:英語の文学
9月以降に授業で読んだAmerican Short Stories of Todayからの作品。Graveyard DayはBobbie Ann Masonという1940年生まれの女性作家の作品。初恋の男の子、離婚した前夫、現在の恋人が全員Joeという名前だということに居心地の悪さを感じながら、新たな一歩を踏み出そうとする子持ち女性の話。ちょっと生意気な娘や、杖を集めるという変わった趣味をもつ恋人、休暇には思いっきり浪費する友人とパートナーなど、アメリカンな雰囲気がいっぱいです。Bobbie Ann MasonはIn Countryという、ブルース・ウィリス主演の映画の原作者でもあります。私はこの映画を見ていませんが、「ベトナム戦争後遺症モノの一本。本作で特徴的なのは、直接ベトナム帰還兵を描くのではなく、ほとんどベトナムを知らない普通の高校生(正確には高校を卒業したばかり)の女の子を主人公にしている点」(『みんなのシネマレビュー』)だそうです。このように、庶民的で作者自身に近い視点から世界を描くのが、この作家の特徴なのかもしれません。
Wright MorrisのVictrolaは、Victrolaという女性のような名の年寄りのオス犬と、その犬を同じアパートの女性から「相続」した、これまた年寄りの男性Bundyの話。彼は、『この歳になったら欲しいものなど無い』と言う一方で、妙にAltoids(イギリスのミントキャンディ)が欲しいと言ってみたり、知り合いの犬GypがVictrolaと遊ばなくなった理由は"Gyp's a young dog. Your dog is old."と言われて、じゃあ自分も相手にされなくなるのかなと気にしたり、一般に年配の男性は疑い深いが、Elderly women, as a rule, were less suspicious, and grateful to exchange a bit of chitchat. Bundy found them more realistic: they knew they were mortal.と思ったりして、おそらく人付き合いは悪いけれど、読者は好感を持ってBundyを見ることができます。物語の大半はBundyがVictrolaを連れて出かける場面で、行く先々での、この「年寄り同士」のパラレルな関係が、年を重ねる悲哀を増幅します。
Small Avalanchesは、Joyce Carol Oatesの作品。14歳の女の子が主人公なので、アメリカでは学校の教材としても使われることがあるようです。この作品は、始めの数ページで主人公の性格や生活状況などが何気なく描かれ、後で起こる出来事を暗示する要素もたくさん提示されます。物語のクライマックスでは、成長過程の女の子の、ちょっと恐ろしい面が見られます。これがOatesの作品らしいところです。
The FiendはFrederik Pohlという、あまり知られていない作家のSF。物語の最後で、それまでの違和感が一挙に無くなる回答が提示される、という展開。再び読み直すと、文章の細部に、その回答が規定する要素がキチンと示されていることがわかります。たとえばBy the time Silvie came back biscuits, bacon, and hot coffee were set out for her.という文。Silvieがシャワーを浴びている間に、朝食が用意されていた、ということですが、ここではなぜbiscuits, bacon, and hot coffee were set out for herという受動態を使っているのでしょうか。話の主人公Dandishは、Silvieを開放し、話しかけているのですが、ここではDandishを主語にはしていません。これは、朝食を用意した行為者Dandishが、実は存在しないからなのです。
授業で使っている本には別冊注釈本が付いていて、日本語で粗筋が書いてあるのですが、Small Avalanchesや、このThe Fiendについては、先に粗筋を読んでしまうと面白さが半分以下になってしまうような気がします。先に解説を読まないと分かりにくいし、分からないと面白くないし、でも解説を読むと面白くなくなる、というCatch22的な状況に陥ります。この状況から脱するには、やはり読解力をつけるしかないわけですね。うーむ。